日付: 2024年4月29日
コラム:その商品って本当に100円の価値しかないの?
なぜ授産商品はこんなに安いのか
「就労継続支援施設で作られたお菓子が安くて美味しい!」という情報がSNS等で流れてくることがあります。数年前と比べ「授産品」と呼ばれる就労継続支援施設(作業所という呼び方に馴染みがある方も多いかもしれません)の商品へ偏見はなくなり、身近になったように感じます。支援員として勤務を始めてから、さまざまな施設のお菓子を食べてきましたが、風味豊かで質の高い商品が非常に多いと感じます。コストを安く抑えるために材料の質を下げるという選択をされる施設は非常に少なく、どこも良い材料をふんだんに使ったお菓子を作っています。 驚くことがその安さです。たくさん入って100円という商品もあり2〜30年前の水準と勘違いするほどの価格で商品が売られています。近年、バターを始め材料の高騰により市販のお菓子も相次いで値上げしています。 そんな中、授産品の価格はほとんど変わっておらず、いまだに目を疑うほど安いものばかりです。
なぜこのような安い価格で販売されているのでしょうか。
安い価格で販売する理由
通常の雇用は人が足りないポストがあり、その役割を果たしてくれる人材を見つけるために求人募集をかけます。そのため、雇用したのにその人にやってもらう業務がないという状況はあまり起こり得ません。しかし就労継続支援の場合、現場が人手を必要としているかという事情は関係なく募集をかけ、勤務する利用者の分、作業を準備する必要があります。実施してもらえる作業がなければ利用者を受け入れることもできないため、支援者の監督が行き届くような複雑ではない作業が、たくさんの利用者がいてもなくならないほど必要、という事業所側の事情があるのです。 安い価格で売ると商品の売れ行きは良くなりたくさんの商品がなくなり、また商品を作ることができます。そうなると支援者側としては作業が安定的にたくさん生まれてありがたいというわけです。 また、販売価格を100円というキリのいい金額にこだわる事業所もあります。計算をしやすい金額であれば多くの利用者に販売へも携わってもらいやすいという事情もあります。販売は手に取るお客さまの反応を直接見ることができる機会であり、社会とのつながりを感じられる瞬間でもあります。複雑な計算になってしまうとお金のやり取りをすることができなくなる方もいるため、100円のままにしているという事業所もあります。
果たしてそれで経営が成り立っているのでしょうか。
就労支援事業における会計について
就労支援事業における収入は、福祉事業活動により生じた収入と生産活動により生じた収入に分けられます。簡単に説明すると、商品の販売によって得られた利益は分配されて利用者に工賃として支払われ、私たち支援者の給料は利用者がくることにより自治体から支給される給付金等から支払われるため、会計は別になります。
就労継続支援B型では雇用契約を結ばないため、 最低賃金の支払いは不要となります。令和4年度の大阪府における就労継続支援B型事業所の1ヶ月の平均工賃額は13,681円となっています。商品を売ることで出た利益が少なければ工賃が減ります。それでも作業があり、利用者が来るのであれば給付金は支給され、支援者の給料となる福祉事業活動における会社の売上は上がるのです。
この事実を知ってもなお 「計算がしやすいから」「社会参画の機会を減らさないため」という理由で、商品を100円のままにしてよいと思いますか?今手に取った商品は、本当に100円の価値しかないのでしょうか?
商品の価値を決めるのは誰?
商品の価値を決めるのはお客さまではなく支援者です。なぜなら価格設定を行うのは支援者だからです。 「支援者が安く価格設定した授産品は、買っても利用者の利益にならないから買うべきではない」とは思いません。 その事業所で利用者が過ごす時間や経験に価値があることも支援者として理解しています。 ただポリフォニーとしては働く人のバックグラウンドに関わらず商品自体に価値があるものを作ることを目指し、 他事業所の2〜3倍の価格を設定し、少しドキドキしながら販売しています。 利用者それぞれが力を出し合うことでお客さまにとって魅力的な商品を提供できる『ポリフォニー・ブランド』を育てていきたいと思い、日々奮闘しています。
田上 結稀(ポリフォニー・社会福祉士)