日付: 2019年1月7日
自己覚知とは① 「自己覚知」という用語
「バイステックの原則」は、社会福祉士や精神保健福祉士、介護福祉士、ケアマネジャーなどの資格取得と対人援助職に就く者にとって重要視され必ず学ぶ原則だ。そもそもバイステックの原則はケースワークの原則だが、日本において対人援助職にとっての倫理・行動規範としての意味をもって取り扱われている。同じように「自己覚知」も対人援助職にとって重要な技能だけでなく、倫理・行動規範として重要視され語られている。
しかし、バイステックの原則もだけども、「自己覚知」の用語はとても曖昧に伝えられているのではないか。
一般的に「自己覚知」とは、ソーシャルワーカーなどの対人援助職において、クライエントを知ることも大切だが、まずは自分を知ることが重要であると言われワーカーの「自覚」や「自己認識」のことを「自己覚知」という用語で必要性が説かれている。今や対人援助職の常識語となっている「自己覚知」という言葉だが専門職においては当たり前過ぎて用語の定義を広い意味では語り合われているが、正確に用語の経緯を踏まえ検討されることは専門職間において少ないのではないだろうか。
僕自身「自己覚知」という用語は「自覚」という用語のさらに元になった言葉だと勘違いした。
自己覚知という用語は、そもそもソーシャルワークが日本に紹介される際、欧米のソーシャルワーク教育で使われていた「self-awareness」の略語だ。「self-awareness」が常に「自己覚知」と訳されているわけではなく、通常は「自己認識」「自己理解」と訳されてので邦訳の専門書の中には「自己覚知」という用語は想像しているより少ない。
正確な使い方としては、例えば、対人援助において、クライエントに対して感情を陰性転移させてしまったり、ワーカーのコンプレックスなどが原因で不適切な援助を少なくしていくため自己理解が必要性なことから、その様な場合の自己認識について「自己覚知」を使用するのがオーソドックスな「自己覚知」という用語の使い方となる。
クライエント自身が自らの理想像を現実と一致させる時、自らを内省し自己認識を高めていくことが必要で、それを援助する側からの視点で、クライエントの「自己覚知」の必要性を感じているという時、使用されている場合。つまりクライエントの自己覚知があるが、自己覚知が必要なのはソーシャルワーカーに必要なのはわかりますが、クライエントに求めるものではないので、厳密にはクライエントの自己認識に関しては「自己覚知」を使うべきではないと僕は考えている。
ソーシャルワーク理論が日本に入ってくる過程で、自己覚知の意味で使われた「self-awareness」の訳語は、当初は「自己認識」から「自己意識性」などと訳され現在の「自己覚知」へと落ち着き定着したようだ。
そもそもはソーシャルワーカーを教育する際に用いられていた概念だ。
では、なぜクライエントに用いられるようになったかというと、カールロジャースの三原則「自己一致」概念の混同もあるのではと思うのです。
カールロジャースもカウンセラーに対して自己一致が最も必要な原則として用いられていますが、カウンセラーの適切な関わりによってクライエントも現実体験と自己概念とが「一致」することによって実現傾向を発揮しはじめるとされています。
「自己覚知」がソーシャルワーカー専門職がプロフェッショナルとして身につける自己認識の概念であるならば、それは自分自身の課題解決が必要であっても、自己の課題解決が目的であってはならない。あくまで支援や調整のための自己認識である必要がある。また、逆に支援や調整のために他者への認識ばかりに集中してしまって自己反省を怠り、自己の課題を疎かにしてはいけない。あくまで自分を道具としてクライエントを支援・調整するために、自己の課題に向き合い、自己認識を深めていくこと。つまり「専門職としての自己認識」が「自己覚知」なのだ。
坂根 匡宣